皆さんは同値撤退という言葉をご存知でしょうか。
株の売買をやっていると自分の意に反して値動きするということが多々あります。えぇそりゃもう本当にたくさんありますよね。例えば上がると思って買ったのに大きく崩れてしまうこともあれば、順調に上がったのに突如として雪崩に巻き込まれ大幅下落というケースもあるでしょう。
そんな時に知っておきたい考え方こそ「同値撤退」であり、この一種のテクニックを上手に使うことで自分のリスクを調整できるわけです。そこでこの記事では
- 同値撤退とはどういうものか
- 同値撤退のやり方やコツ
- 同値撤退で節税ができる噂
などについて述べてみました。そこまで難しい話ではないのですが、同値撤退そのものに対する考え方は意見が分かれるところなのでぜひご参考ください。
株の同値撤退とは
まず同値撤退の読み方ですが、これは「どうねてったい」と読みます。その名の通り自分が保有した取得単価と同じ価格で撤退、すなわち逃げることを意味する言葉です。
この撤退という表現の裏側には
- これ以上損失を出さないように
- 損失はまだ出ていないが出る前に
という意味合いが込められていて、同値撤退は自分の身を守るための概念と言えるでしょう。
手数料負けをどう考えるか
同値撤退の例としては
- 株価100円で指値買い
- その後、株価が90円に値下がり
- ある日材料が出たことで株価が上昇し始めた
- 100円で指値売りしてみたら無事に約定してくれた
といった感じでしょうか。このケースでは100円で買ったら値下がりしちゃったので材料をきっかけに同値撤退したわけですね。
ここで気になるのは最後の同値撤退でどれくらいの損益になったのかということでしょう。多くの初心者さんは同値撤退したのだから損益はプラスマイナス0だと思うかもしれませんが、実際には
- 保有するための買い注文
- 同値撤退するための売り注文
の2回分で手数料が発生していますのでいわゆる「手数料負け」となっているのがポイントですね。もちろん、昨今のネット証券で流行っている
- 一日の約定代金が何円までなら手数料無料!
- 何円までの約定金額であれば回数に関わらず無料!
というシステムなら気にする必要はありません。同値撤退はそのまま損益イーブンなので深く考えなくて済みます。しかし、全てがそういうケースではないのでこれを機会に考えてみて下さい。
仮に往復手数料が1000円かかっていた場合、100株保有であれば自分の保有単価より10円上に指値売りをしなければなりませんよね。あなたならここをどう考えますか?
- 同値撤退はそもそも状況が悪いので手数料はさておきちゃんと同値撤退する
- いやいや手数料込みで同値撤退しないと損しているのでダメだ
上記のように考え方は分かれる可能性があって、私が言いたいのは「実際にその状況に追い込まれる前に考えておくべき」ということなんです。
個人的には状況がすこぶる悪いというケースであれば前者に一票で、その背景には「過去に手数料を気にしたことで逃げ遅れた」という経験があります。その時は手数料以上の損切りになっただけでなくしっかりと手数料も払いましたので、それを機に状況が悪い同値撤退をする時はシンプルに考えようと思いました。
やり方やコツ
同値撤退する際のやり方はもはや言ってしまったようなものですが一応書きますと、
- 自分の保有単価を確認する
- 同じ株価で指値売りを出す
というだけの手順です。ただ、ここにはちょっとしたコツがあります。それは「自分の都合で考えず値動き状況を加味する」ということです。例えば・・・
あなたが赤丸でこの株を買ったとします。しかし、そのあと図のように大きく値下がりしてヨコヨコ期間に移行しました。このヨコヨコ期間では含み損を抱えながら耐えるわけですが、そんなある日青丸のように大きくギャップアップしながら大きめの陽線が発生してくれました。こんな場合、おそらく多くの方が「自分の買い値まで戻ってきたら売ってしまおう!」と感じますよね。
なぜならヨコヨコ期間で含み損を持ち続けたことで「早く切ってしまいたい、このつらさから解放されたい」という気持ちが強まっているからです。しかし、ここで考えるべきは「なぜこんなにギャップアップして高値に戻ってきたのか」ではないでしょうか。
このケースであれば好決算という材料が出たことで出来高急増となっていて、将来への見通しが市場に好感されたのが理由です。もし市場センチメントが
- この企業はまだまだ業績が伸びそうだぞ
- 新高値を狙って保有し続けたいな
という気持ちでいっぱいなら同値撤退どころか利益確定に持っていける可能性は高いでしょう。実際にこのあとの展開は・・・
直近高値を抜いて続伸しました。センチメントの判断ポイントとしてはギャップアップ陽線直後の陰線連続(すなわち売る人の動き)が出来高減少傾向にあったことでしょう。
同値撤退のコツは例えばこんな感じで「自分の気持ちを最優先しないこと」です。含み損の苦しみから逃げたいと思うとどうしても盲目になりがちですが、状況が好転しているのであれば利益を狙うこともアリかなと思います。
逆に利益がたくさん乗っていたのに高値で売り物が多く出てきたという状況であれば
- そもそも利益が目減りしないうちに高値で逃げること
- 逃げ遅れたのであれば微益や同値撤退をためらわないこと
を考えた方が良いでしょう。大事なのは市場がその株をどう捉えるようになったのかという点であり、自分の取得単価で世界は回っていないことを認識することですね。
同値撤退を考える状況とは
同値撤退はいわば自分を守るために行う防御策です。したがって同値撤退を考えるケースというのは
- 到底、利食いまで持って行けそうにないな
- このままだと損切りを余儀なくされそうだ
と感じた場合でしょう。
わかりやすく言うならば株を保有したときに「あちゃーこれはエントリーのタイミングを間違えたな」と感じることがありますよね?そういった場合は同値撤退やそれに近い位置で撤退することを念頭に手仕舞いを考えるわけです。
やはりここにも値動き状況を勘案するという要点があって、保有してから売り物が続いてしまったような時は買い戻しや安値抵抗からの反発を利用して逃げるといった具合ですかね。ということで具体例をひとつ挙げてみます。
これは私がTwitterでつぶやいた任天堂の5分足チャートです。前場のヨコヨコでエントリーしてからお昼休みでつぶやいたのですが、売買した理由としては赤枠のヨコヨコ部分から高値に戻ってくれると感じたからです。
ただ、懸念点として当日の日経平均がジェットコースター状態だったので後場も荒れるかなという所はありました。実際に後場寄りからは・・・
このように先物先導でギャップダウンした恰好ですので、これは見立てを誤ったということで「利食いより同値撤退を狙っていこう」という判断に切り替えました。すると運良く安値抵抗を見せてくれたため「これはもしやそれなりに戻すやつか」と考え、取得単価より少し下(長期移動平均線目安)に売りを入れた流れです。
ちなみに株価が戻す前にTwitterで「これは安値で耐えたら戻すやつ」とちゃんとつぶやいていますが、ここで述べたいのは「値動き当ててすごいでしょ」ということではありません。
そうではなく「同値撤退を感じとるにはある程度の経験によって値動きの流れを感じ取ることが重要だ」ということです。うまく言えませんが今回の値動き状況も初めて体験したわけではなく、今まで同じような状況を何回も経験する中で
- 損切りしたら株価が上がっちゃったよ!
- こうなった時は戻すことが多いな
という想いを持ったからこそ任天堂の売買で同値撤退を選べたのだと考えています。最初から同値撤退を狙う人などいませんが、皆さんもやばいと感じた時は今までの経験則を含めながら判断してみてはいかがでしょうか。
ボロ株や低位株で節税
ところで、ここまで述べてきた同値撤退を低位株にて繰り返し行うことで節税ができるという噂を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。私は実践したことがないですが、手順としては
- 特定口座を使い低位株を現物売買する。この時、簿価換算時に小数点以下が切り上げられるようにする。
- 取得単価が1円切り上げられた状態で同銘柄を空売りクロスして現渡を行う
といったものです。ポイントとしては
- 税制上の単価と実際の単価が異なっていること
- その差分が税制上は損失となって計算されるのでそれが節税効果を生む
ということです。
この簿価換算時の小数点以下切り上げ表示は2014年7月22日にTOPIX構成銘柄の呼び値ルールが変更されたことで導入されたシステムで、「対象銘柄の株価が5000円以下になった場合に取引価格の刻み値が小数点第1位まで変更され細かくなる」というものでした。
参考:楽天証券|【特定口座】小数点株価を考慮した実現損益の表示
このシステム変更によって実際の損益と税法上の損益が異なる状況が発生するようになり、ボロ株や低位株を使った節税策はこの抜け穴を利用したものと言えます。
楽天証券から抜粋した上記の例では単純に低位株で細かな利益を出したケースとして紹介されていますが、節税をするためには値動きは排除したいですよね。なぜなら株価が下がって本当に損失計上してしまう可能性が出てくるからです。
そこで簿価は切り上げた状態で空売りクロスを同一銘柄に入れ、値動きリスクを排除しながら税制上の損失だけ計上するようにしています(違っていたらごめんなさい)。
この方法には手数料や金利が絡むのでその分はコストとして受け入れなくてはなりませんが、節税効果を繰り返し積み上げることで大きな節税効果を生めるようです。
ただ、この方法には重大な欠点があるので使うことはできません。その欠点とは「クロス取引によってただでさえ少ない低位株の出来高が増加してしまう」ということです。
実はこの欠点を無視して低位株節税法を繰り返したために課徴金命令を受けたという実例があります。このケースでは
- 岐阜銀行(既に合併で消滅)の株を繰り返しクロス取引
- 金融庁の調べでは該当期間54営業日中29営業日で確認
- 当該取引による市場占有率は合計16.88%にのぼった
- これにより平成22年分は約108万円、平成23年分は約154万円の損失を発生させていた
参照リンク:金融庁HP|株式会社岐阜銀行株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について
という内容でしたが、最終的に「仮装売買および繁盛等誤解目的」にあたるということで課徴金を言い渡されました。もちろん本人としては節税目的を主張したようですが、やはり出来高の問題から市場参加者に誤解を与える可能性が高いということで認められなかったようです。
このように理論上はボロ株や低位株を繰り返しクロス取引することで節税効果があるようですが、過去に同一手法で課徴金命令が下っているためおすすめはできません。
まとめ
今回は同値撤退について色々と述べてみました。最も重要なことは値動きの流れを考えて判断するということであり、そこに自分の感情論を挟まない方が良いです。また、値動き判断にはある程度の経験則が必要なので毎回の売買で自分がどう感じたのかをちゃんと覚えておかなければなりませんね。
今回は任天堂のケースを紹介しましたが、あれはたまたまうまくいっただけかもしれません。したがって私自身、今後の売買でもうまく同値撤退できるかはわからないのです。だからこそその時に最も良い判断だったと言えるようこれからも経験を蓄積していこうと考えています。
値動き判断した結果、自分のリスクをうまく低減できたのであれば同値撤退であっても勝ちトレードに等しいのでぜひ売買に取り入れてみてはいかがでしょうか。(ちなみに、記事中で紹介した節税策は悪い例として述べたものですので決してマネしないようにお願いします。)
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