時価総額が低いメリットはどういったことでしょうか?
上場企業の価値を決めるものとして「時価総額」があります。これは決してお飾りとしてあるわけではなく、様々な面に影響を及ぼすため個人投資家は低時価総額が大好きです。
この記事では
- 時価総額の概要
- 時価総額が低いメリット
- 時価総額が大きいことの意味
- 低時価総額銘柄の売買で注意したい点
などについて書きました。
株の売買において重要な時価総額について改めて考えていきましょう。
時価総額の意味
まず時価総額の基本的な内容をおさらいします。こちらの計算式をご覧下さい。
- 時価総額=発行済み株式数 × 株価
上記の計算式によって時価総額は算出され、その結果が企業の大きさそのものになります。言い換えると発行済み株式数か株価のどちらかが変化すると時価総額も動くというわけですね。
また、一般的に発行済み株式数は企業側が増やそうとしない限り変わらないものですから、基本的には市場の売買状況によって動く株価が時価総額を動かす要素となります。
ちなみに発行済み株式数が動く例としては
- 増資:企業が新たな資金を求めて発行済み株式数を増やす
- 株式分割:多くの人に売買してもらえるよう発行済み株式数を増やし、その割合に応じて株価を割る
といったものがあるでしょう。
株価の大きさと企業の大きさは別物
ここまでの話で「株価が動くと時価総額も動く」ということがわかりました。ではここで問題ですが、「株価が大きいということは時価総額も大きい」ということになるでしょうか?
答えは「そうとは限らない」です。確かに同一銘柄の比較という意味では株価が大きくなっていけば時価総額も大きくなります。
しかしながら、違う銘柄同士の比較という意味では株価だけでなく発行済み株式数の大きさも関係してきますよね。ということでひとつ例を見てみましょう。
2020年は巣ごもり消費が活発化され、様々な銘柄に資金が流れました。そのうちのひとつとして大きく株価を伸ばした企業に「任天堂」があります。任天堂が注目された理由は人気ゲーム機やソフトの売上高が伸びるという思惑で・・・
このように株価が67000円を超え、100株買うだけでも670万円という大金が必要な状態になりました。
その一方、国内企業で最も有名と言っても過言ではないトヨタ自動車は・・・
このように株価8000円ほどになっています。株価が上昇基調とはいえ任天堂と比較すると8分の1以下ですね。株価だけ見ると任天堂の方がはるかに規模の大きな会社だと感じてしまいますが、実は2021年1月時点における時価総額はトヨタ自動車の圧勝です。
その理由はこちらの表を見ていただければわかる通り、トヨタ自動車は任天堂よりも2.5倍近く株式を発行しているからですね。この比較は
- 株価が低くても発行済み株式数が大きければ時価総額は大きくなる
- 株価が企業の大きさを示すのではなく時価総額が企業の大きさを示す
ということがわかる良い例でしょう。
ただ、これは教科書的なお話であり企業価値がある程度定まってきたようなケースに言えることかもしれません。
その根拠は後述していく時価総額が低いことのメリットに関係しています。
時価総額が低いメリットとは
時価総額が小さいということは「企業規模がまだ小さい」ということです。したがって、
- まだまだ成長余地が残されている
- これからどう化けるかはわからない
という点が基本的なメリットですね(中には赤字だらけで存続の危機という背景から低時価総額になっている企業もありますが)。
例えば2017年に立ち食いステーキという斬新な事業モデルで話題になったペッパーフードサービスという会社があります。当時の時価総額は数百億円ほどだったかと思いますが・・・
1年間でなんと株価は14倍近く上昇して時価総額が数千億円になりました。
先ほどの任天堂やトヨタ自動車の時価総額が1年で14倍になることなどほぼあり得ませんが、時価総額が低い銘柄であれば可能です。
ちなみにこういった大暴騰劇の背景には「小型株の価値など誰にもわからない」という点が関係していると思います。例えばペッパーフードサービスの場合、いきなりステーキという事業モデルの価値がまだわからないからこそ株価がうなぎ登りになったのでしょう。
実際に社会現象になるほどブームにはなっていましたが、それが未来永劫にわたって続くかはわからないはずです。それでも期待先行で株価が先走るからこそ大相場になるので、時価総額が小さい銘柄の面白さはそこにあると思います。
なぜ値動きが軽いのか
ところでなぜ時価総額が低いとこのように値動きが軽いのでしょうか。それは発行済み株式数が少ないことで、ひとつひとつの株が持つ値動きインパクトが相対的に大きくなるからです。
より具体的に言うのであれば低時価総額ほど市場に出回る浮動株が少ないので、少し資金流入が起きただけでも大きく株価が動いてしまうわけですね。
これは実際の板を見れば一目瞭然ですのでこちらをご覧下さい。
左は時価総額が大きな銘柄、右は時価総額が小さな銘柄の板状況です。板というのは買い注文と売り注文が何円にどれくらい入っているのかを表すものです。
注目してほしいのは
- 注文がどれくらいの間隔で入っているのか
- ひとつひとつの価格にどれくらい注文があるか
という点で、時価総額が小さく不人気銘柄だと価格が飛び飛びかつ注文数も少ないですよね。
このような板に大きく買いが入るとあっという間に株価が上がることは目に見えていて、短期間でもそういった状況が続けば株価は何倍にもなるわけです。
連続ストップ高になりやすい
時価総額が低い銘柄の値動きが軽い理由をお話しましたが、同じ理由でストップ高が連続しやすいというメリットも出てきます。
ストップ高とはその当日中において最大上昇幅に達したという状況です。時価総額が大きな銘柄でもストップ高になることはありますが、
- ストップ高になる可能性
- ストップ高が連続する可能性
はいずれも低時価総額の方が高いでしょう。
また、一度もザラ場で寄らなかったという状況が連日続いた場合には翌営業日の値幅が拡大するという仕組みが株式市場には設けられているので、システム的にもさらに大きな値幅を狙うことができます。
こういったストップ高によって大きな値幅を短期的に狙えるという点は時価総額が高い銘柄にはないメリットでしょう。
材料への反応度が高い
時価総額が低いメリットはまだあって、それは「材料が出た際の反応度が高い」ということです。
材料というのは例えば
- 先月の売上高が好調で、前年比プラスは何ヶ月も連続していますよ
- 新しいサービスを発表しましたよ
- 違う会社と業務提携を行いましたよ
といったニュースのことですね。材料には良いものもあれば悪いものもありますが、時価総額が低いとどちらの意味でも株価が反応しやすいです。
時価総額が大きいと
- そもそも発行済み株式数が多いのでよほど大きな材料でないと動かない
- 指数の算出銘柄に組み込まれているケースが増える
という性質上、どうしても指数トレンドや地合いに沿った値動きをしてしまいがちですよね。その点、時価総額が低いと材料先行の値動きが一過性にでも入るのでこれは大きなメリットでしょう。
したがって同一材料に時価総額が異なる複数銘柄が関連していた場合には
- 時価総額の大きさ
- 材料への関連度合い
を考えつつなるべく時価総額が低い方へ乗るべきです。
時価総額が大きいことの意味
ここまでの内容だと時価総額が高い銘柄の魅力が薄れてしまいそうですが、ちゃんと大きいなりのメリットもあります。
まず大前提として時価総額が高いまま長年安定しているような企業はそれぞれの業界内でそれなりのポジションを確保しているということです。
したがって業績や株価水準も安定していることが多く、
- 安定的な値動き
- 少し逆風が吹いた程度では倒産しない
といったメリットがあります。一方、時価総額が低い企業は仮に株価が短期的に大きく跳ね上がったとしても現実に業界内で盤石な地位を築いたわけではないですよね。
前述のペッパーフードサービスも・・・
株価が大きく上がったあと、事業が大きく低迷したことで株価は暴落。メイン事業のひとつを売却する状況にまでなってしまいました。
大きく株価が上がるということはその逆もあり得ますので、この点は十分に注意したいところでしょう。
また、時価総額が大きくなると段々と新規事業への先行投資から株主還元策にキャッシュの使い道がシフトしやすいです。そのため株主側としては安定的な配当政策や株主優待といったインカムゲインを受け取りやすくなりますよね。
もしあなたが将来的に少しでも安定した配当金をもらいたいと考えるのであれば、中大型株でポートフォリオを構成した方が
- 倒産リスク
- 減配リスク
を抑えやすくなるでしょう。これは業界内でのポジションがしっかりしていて時価総額が安定的に高い企業だからこそ生まれるメリットです。
インカムゲインをなるべく高利回りで得るためには株価が下がっている時期に買わなければならないので怖さはありますが、長期的な目線をしっかり持って買えば最終的には買って良かったと思えるでしょう。
ちなみに時価総額が大きな銘柄は前述の通り発行済み株式数が多く売買している人の数も多いため
- 欲しい価格ですぐに約定しやすい
- 一度にたくさんの株を買うこともできる
- 一度にたくさんの株を売ることもできる
- 決算予想など様々な情報を仕入れやすい
といったメリットもあります。
時価総額目安について
ところで時価総額が低いとはどの程度の株を言うのでしょうか。
厳密に言うと小型株や中大型株の定義は時価総額上位何銘柄までとちゃんと設けられているのですが、売買の目安としては
- 数億~100億円程度までが超小型株の部類
- 300億円程度までが小型株
- 500億円を超えてくると小型株とは段々言えなくなる
- 1000億円を超えると立派な中型株
といったイメージですね。
時価総額1000億円でも浮動株などの具合で板がスカスカということはありますが、大体はこのような目安で良いと思います。
時価総額が低い銘柄を売買する際の注意点
ここまで時価総額が低いメリットと高いメリットについて述べてきましたが、それらが表裏一体だということにお気づきでしょうか。
例えば、業績面で言えば
- 高時価総額:安定傾向
- 低時価総額:高い増益率や赤字体質など様々
となりますし、値動き面で言えば
- 高時価総額:比較的ではあるが安定傾向
- 低時価総額:変動幅が大きくジェットコースター的
となるでしょう。また、現実的な企業の信頼度だと
- 高時価総額:安定した立ち位置で信頼度が高い
- 低時価総額:まだ業界内でどれくらいの実力か定まっていない
と考えやすいですね。このように時価総額によって経営面でも売買面でも属性が分かれますので、自分の方針によって最適な時価総額を選択していくことが大事ではないでしょうか。
短期的に大きな値幅を狙いたいのであれば低時価総額が合っているでしょうし、配当や優待狙いもしくは安定的な値動きでそこそこの利益を取りたいなら高時価総額です。
また、スキャルピングをしたいのに低時価総額を狙ってもやりづらいのは明白なので、そういった売買スタイルも重要でしょう。
自分が狙う銘柄の時価総額はしっかりと把握しつつ、最適な方法で利益を取っていけたら良いですね。
まとめ
今回は時価総額が低いメリットをはじめ売買する際の注意点まで述べました。その爆発力の大きさが魅力ではありますが、時価総額水準によって違うメリットもあります。
表裏一体でその特徴は変わっていきますので、自分が求めるのはどのような性質なのかをまず考えたいところです。
個人的にはいくら高い値幅を求めるといっても経験が浅いうちから低時価総額銘柄に大きく突っ込むのはどうかと思いますので、まずは実際に値動きを体験していけそうならガツンと勝負してみてはいかがでしょうか。
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